大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所徳山支部 昭和50年(ワ)110号 判決 1977年12月13日

原告 山田徳代

<ほか四名>

右五名訴訟代理人弁護士 小田基衛

被告 三好洋子

右訴訟代理人弁護士 吉川五男

主文

一  原告泉谷武治および同河野芳範が別紙第二図面のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ土地を通行する権利を有することを確認する。

二  原告山田徳代、同鈴木邇郎および同金崎栄の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告泉谷および同河野ならびに被告の間においては、被告に生じた費用の五分の二ならびに原告泉谷および同河野に生じた費用を被告の負担とし、原告山田、同鈴木および同金崎ならびに被告の間においては、被告に生じた費用の五分の三ならびに原告山田、同鈴木および同金崎に生じた費用を原告山田、同鈴木および同金崎の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告ら

1  原告らが別紙第二図面のイ、ロ、ハ、ニ、イを順次直線で結んだ土地を通行する権利を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、主張

一、請求原因

1  原告らと被告および訴外横田は別紙第一目録および同第二目録記載の土地をそれぞれ同目録記載のとおり所有している。

2  本件関係土地の所在は別紙第一図面に記載のとおりであり、原告らの土地は、それぞれ他人所有の土地によって囲繞せられて袋地をなしているから、原告らは市道に通ずるため囲繞地を通行する権利を有する。被告所有の土地は、原告らの土地の囲繞地の一部を形成している。

3  原告らの土地は、いずれももと徳山市東山町一、九七八番または一九七九番の一部であった。右二筆の土地は、もと神地紀子外五名の者の共有していた田、畑、雑種地等十数筆の土地が合筆のうえ宅地として造成されたものであり、その後右二筆の土地が順次分筆譲渡され、原被告らが所有するに至った。従って、原告らが通行しうべき土地は、民法第二一三条第二項により、他の分筆地すなわち分筆前に原告らの土地と一体をなしていた土地であることを要し、また通行する場所は同法第二一一条により原告らに必要で被通行地に損害の最も少ないところであることを要する。

4  ところで、前記宅地造成当時、別紙第二図面イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ土地(以下本件係争地という)およびその西方の幅一、一メートルの土地(以下本件供与地という。本件係争地と本件供与地との両者を合わせて以下本件通路という)ならびにその北方へ、原告金崎の所有土地まで延長した土地が通路として設けられ、分譲後土地所有者、居住者、一般人により利用されてきたのであり、原告らは本件通路を通行する権利を有する。けだし、

(一) 本件通路およびその北方への延長した土地は、原告金崎の土地を北端にし、他の原告らの土地を両側にする好位置に存在し、六筆の袋地全部のために利用し得るので、被通行地に与える損害を少なくする。

(二) 本件通路およびその北方への延長した土地は、境界を中心としていて、敷地に必要な土地を両側の土地から取入れているため、各土地の損害が半減しているばかりでなく、両側の土地の奥行がいずれも略等しく、境界、従って通路が直線をなしているので、損害が各土地の面積に比例し、公平でもある。

(三) 原告らが通行権を有する囲繞地中、本件通路以外の場所は、すでに住宅、その付属営造物のためあますところなく利用されていて、通路に利用し得る空地に乏しく、強いて通路を設ければ、多大の損害を囲繞地所有者に与えることとなる。

5  しかるに被告は、原告らの右権利のうち、別紙第二図面のイ、ロ、ハ、ニ、イを順次直線で結んだ土地に対する通行権を否認し、別紙第一目録(6)の土地を駐車場とするため、本件通路のほぼ中心線にあたる別紙第二図面イ、ロ上にブロック塀を設置せんとしているので、原告らは右権利の確認を求める。

6  被告は、本件通路部分のうち幅一、一メートルの土地(本件供与地)が原告らの通行のために供されているから、原告らが本件係争地を通行しうべき権利をもたない旨を主張するが、原告らはこれを争う。その理由はつぎのとおりである。すなわち、

(一) 袋地通行権の通路の幅は、社会通念に照らし、かつ利用者の利害得失を斟酌すべきであるところ、もし被告主張の如くとすれば、幅一、一メートルの通路は、被告が設置せんとするコンクリートブロックの障壁の通路の西側に存する横田修所有の二階建アパートおよび別紙第一目録(5)の土地上に存する被告宅のセメント塀によって上方の空間が狭められるから、大型の什器、家具類を持運ぶことを困難ならしめるばかりでなく、身一つで通行することすら窮屈ならしめ、殊に火災時の消防、避難行動を妨げることは必定であって、原告らの日常生活を不自由とするだけでなく、生命、財産をも危険にさらすことゝなる。

(二) 本件通路の幅は、二、四四メートルであって、建築基準法第四三条、道路法第三〇条第一項第一号、道路構造令第三九条が、都市生活上必要として定める道路幅の最少限度である二メートルをわずかに越えるにすぎないのに対し、被告の主張によればわずか一、一メートルになってしまう。ところで、本件通路は、袋地をなす原告らの宅地の利用に供する目的で、徳山市に施行されている建築基準法第四三条に準拠して設計されており、これらの宅地上の建物は、いずれも右法条の定める幅員を有する本件通路に面していることを条件として建築を許可されているのであるから、今に至って本件通路の幅員を削減することは、原告らの宅地上の建物の適法性を失なわしめるものであり、更に被告は本件道路添いの別紙第一目録(5)の土地上に家屋を新築して居住しているが、右家屋の建築にあたっては、宅地が幅員二メートルを有する本件通路に面していることを理由に徳山市から建築を許可されているのであって、被告の前記ブロック塀建築工事は、右許可に背反するものである。

二、請求原因に対する認否

第1項、第2項、第4項(三)および第5項の事実を認め、第3項の事実は不知、第4項冒頭の事実を否認する。

三、被告の反論

被告は、原告らにおいて被告の土地につき囲繞地通行権を有するとすれば、その位置が本件通路部分にあることは認めるが、その幅員を争うものである。その理由は次のとおりである。すなわち、

1  原告らが本件通路として主張する土地の範囲は、被告が本件被告所有地を買受けた当時においては雑草が生植し、そこをいわゆる兎道程度の状態に通路といえばいえるものが形成されていたにすぎない。

2  原告らには、本件通路のうち、一、一メートル幅の西側部分が通路として確保されており、囲繞地通行権としては、右幅員の通路で十分である。すなわち、相隣関係上の通行権は、必要性の問題であって利便の問題ではなく、囲繞地通行権の道路幅についても同様である。而して、本件の如く関係土地が住宅地にあり、人の居住の用のために利用がなされる場合は、その囲繞地通行権は袋地への人の歩行による通行、日用品、家具の搬出入に不便をきたさない限り、満たされているのであって、地震、火災の如き万一の危険に対する防災のためとか自動車通行のための道路幅は利便の範囲に属するものであって、必要性の問題とはならないのである。

3  原告らや被告の建物が、本件通路の存在をもって建築許可となった事実は認めるが、建築基準法とか条例による建築制限を理由として、囲繞地通行権の幅員を主張することは失当である。

4  被告は昭和四九年九月原告らに対し、通路として欲する部分を相当な時価をもって買取ることを申入れたが、原告らはこれを拒否し、原告らの利便のために無償で被告の受忍を強いるものであって、原告らの主張は失当である。

第三、証拠関係《省略》

理由

一、請求の原因第1項、第2項および第5項の事実は当事者間に争いがない。

二、1 《証拠省略》によれば、本件関係各土地は、過去において次のとおりに旧地番の土地が合筆と分筆を繰り返して、現在に至っていることが認められる。すなわち、

(一)  徳山市東山町の旧一九七八番の土地(以下旧一九七八番と略称する。他の土地についても同様)と一九八〇番の二は、もと服部和三の所有するところであったが、昭和三四年六月一三日神地紀子他五名において所有権移転登記手続を得たうえ、同日これらを一九七八番に合筆し、更に同日これを同番の一ないし六に分筆登記手続をなした。

(二)  同年八月二一日、同番の二は同番の二、七、八に分筆され同日右分筆された同番の二は同番の二、九に分筆された。

(三)  同三五年四月二一日、同番の八は同番の八、一〇に分筆された。

(四)  同年四月二八日、右同番の一、九および旧一九七九番は一九七九番に合筆された。

(五)  同年五月一八日、右一九七九番から同番の二が分筆された。

(六)  同年一二月二七日、一九七八番の七は同番の七、一一に分筆された。

(七)  同四六年九月一三日、同番の五は同番の五、一二、一三に分筆された。

(八)  同年一一月二〇日、同番の一二は同番の一二、一四、一五に、同番の一三は同番の一三、一六に分筆された。

(九)  同四八年九月二八日、同番の六は同番の六、一七に分筆された。

(一〇)  この間の同三五年五月一八日、一九八〇番の一から同番の二が分筆された。

(一一)  また、右各分筆の前後において、各土地の所有権は、いずれも数回に亘って移転されており、現在における各土地の所有権者は、原告ら主張のとおりである。なお、本件当事者がその所有土地につき所有権移転登記手続を了した日は、原告山田は昭和三六年四月一八日、同泉谷は同五〇年一月一八日、同河野は同四三年二月二六日、同鈴木は同四六年五月一日、同金崎は同四九年一月一一日、被告は旧一九七八番の一三につき同四六年九月二一日、旧同番の六につき同四七年七月一一日である。

2 右のうち、昭和三四年六月一三日に新一九七八番が同番の一ないし六に分筆された当時における各土地の所在位置は、右認定の事実および前記当事者間に争いのない請求原因第2項の事実によれば、別紙第三図面のとおりであったことが認められる。もっとも、同番の三ないし六が、右図面のとおりであったことは明らかに認められるが、本件全証拠によっても同番の一、二についてはその所在位置の全てを明確に認定することができない。しかし、少なくとも、前記認定の分筆、合筆の経緯からして、当時の同番の二が、東南方において公道に接していたことおよび当時の同番の一が同番の二の北東方に位置していたこと、当時の同番の二は、現在の同番の二、七、一一の各北東の境界より更に北東にも広がっていたことは十分に推認される。そこで、右図面においては、境界の認定しうる土地については実線で、位置については推認されても境界の認定しえない土地については点線をもって表示した。

3 右に認定した事実によれば、一九七八番の三と四については、囲繞地である被告所有の土地を通行しうる可能性を有するが、同番二および同番一一については、当初においては公道に面していた昭和三四年六月一三日当時の旧同番の二から分筆されたのであるから、民法第二一三条により、当時の同番の三ないし六を通行しうる権利を有しないこととなる。なお、この点に関し、袋地または囲繞地の所有権について特定承継があっても、囲繞地通行権の適用法条が民法第二一三条から同法第二一〇条に変更される理由はない。なぜならば、囲繞地通行権あるいは通行受忍義務は、土地所有権の内容をなすものであるから、その法主体の変更に影響を受けるものではなく、またこのように解しなければ、袋地または囲繞地が特定承継されることによって、その各所有者において不測の得失を生ずることになるが、これを相当とする根拠を見出し難いからである。また、当時者に争いのない請求の原因第2項の事実および右第二項において認定した事実によれば、一九七九番の二は、もと公道に面していた旧一九七九番から分筆され、一九八〇番の四ももと公道に面していた同番の一から分筆されたこととなるから、右と同じ理由により、いずれも同法第二一三条により一九七八番を親番とする土地を通行しうる権利を有しないこととなる。してみれば、原告山田、同鈴木および同金崎の各請求は、その余の主張につき判断するまでもなく理由がないから、棄却を免れない。

三、次に原告泉谷および同河野の請求について更に判断する。

1  まず、右に認定した事実からすればその通行しうべき囲繞地は必ずしも本件通路の位置(範囲についての判断をしばらく留保して)にのみ限られるわけではないが、当事者に争いのない請求の原因第4項(三)の事実および事実摘示欄記載の三、被告の反論冒頭の陳述によれば、原告らが通行しうべき土地の位置は本件通路にあるとするのが相当である。

2  そこで、原告らの通行しうべき土地の範囲(幅員)について検討する。

まず本件通路のうち、幅一、一メートルの供与地が原告らの通行の用に供されていることは、当事者間に争いがない。被告は本件囲繞地通行権の範囲としては右供与地で十分である旨を主張し、原告らはこれのみでは不十分であり、本件通路全部が必要である旨主張する。

ところで、囲繞地通行権は、隣接する土地がそれぞれ完全に利用されるようにするために、囲繞地所有者の損害を最少限にする方法で、袋地所有者の土地利用に必要な通行の利益を保護しようとするものであるから、その通路の幅員は、一義的に決しうるものではなく、当該関係土地の利用の現況と従来の経緯を検討し、更に土地利用に関する行政法規の内容をも参酌し、かつ民法第一条第二項に定める信義誠実の原則を十分にふまえながら、これを判断するべきである。これを本件についてみるに、《証拠省略》によれば、つぎの事実が認められる。すなわち、本件各土地は住宅地にあって、原告らはその所有土地上の建物に居住するか、他人をして居住せしめているものであって、日々その所有土地を住宅地として利用し、囲繞地を通行せざるを得ない状況にある。本件供与地の西側には、右供与地に接するようにして、一九七八番の五と一六の所有者である横田所有の二階建アパートと同番の一三の土地上にある被告所有のセメント塀が築造されている。右事実によれば、今被告が別紙第二図面イロ上にブロック塀を築造したならば、原告らにおいて、日常の歩行による通行には特段の支障はないとはいうものの、大型の家具等の搬出入に困難をきたすばかりでなく、火災や地震等の不時の場合、その生命や財産に対する危険を受けるおそれが大きいといわなければならない。また、日常の生活においても、自動車の出入が不可能となって多大の不便をこうむることとなるが、自動車の利用が普遍化した現今の社会にあっては、これを妨げられた土地の利用価値は、格段に劣ることとなる。このことは、住宅地の価格が、自動車の出入りが可能か否かで格段に差を生ずるであろうことを考えれば十分肯認されるところである。本項の判断にあたっては、単に歩行して公道に通じうれば足りるとすべきではなく、自動車利用の可否をも十分に斟酌すべきであると考える(無論当然に自動車を進入せしめうるとすべきでもないが)。次に、《証拠省略》によれば、さきに認定したような経緯から、本件進路およびその北東方への延長部分は従来一九七八番の二、三、四、一一の各土地上の所有者や居住者らによって、自動車を出入せしめうる通路として利用されてきた。また、山口県知事は、都市計画法第一八条第一項、第二〇条第一項により、本件関係各土地を含めて、周南都市計画市街化区域及び市街化調整区域を決定し、これを昭和四五年一二月二五日山口県告示第一〇七三号をもってこれを告示したから、本件各土地上の建物については、被告の一九七八番の一三の土地上の被告所有の建物を含めて、建築基準法第四三条第一項の適用を受けるところ、本件通路が道路として利用しうることを理由としてその建築を許可されているものである。ところで、《証拠省略》によれば被告が原告らの請求に応じないのは、被告がその所有する一九七八番の六の土地を利用して自動車の駐車場を経営しているが、原告らの請求を容認しては、これの効率的な利用に障害となることを理由とするものであり、右事実はそれ自体では理由があるけれども、その範囲からして結局は金銭上の、しかも多大とはいえない損害に帰するものであって、前記本件係争地を利用しえないことによる原告らの不利益に比較すれば、これが本来は権利の行使として許容されるべきであることを考慮しても、右損害を過大に評価してはなるまい。そうして、被告が別紙第二図面のイロ上にブロック塀を築造するならば、これらの建物は事後的にせよ公法的には違法の存在となり、なお将来にわたって建物の建築を不適法とするものであるが、被告において(本件係争地を含めた)本件通路を道路としたうえで、自己の建築許可を受けておきながら、その後に至って本件係争地を取りつぶし、原告らの土地利用上の犠牲を顧みることなく、前記のように自己の経済的な利得のみを実現しようとするのは、原告らとの関係においてもまさに信義誠実の原則に反するものというほかはない。

以上に検討したところによれば、原告らが通行しうべき土地の幅員は、少なくとも二メートルを下回らないというべきであるが、従来の経緯に照らして原告らは普通自動車による通行もなしうるとするのが相当であって、なお自動車が進入した場合にも人の歩行も可能でなければならないこと等よりして、原告らは本件供与地とあわせて本件係争地の全て、すなわち本件通路の全部を通行しうべきものと判断する。なお《証拠省略》によれば、被告が本件訴訟に先だつ昭和四九年九月本件係争地を買取るべき旨を原告ら全員(但し、一九七八番の三の土地については当時の所有者岡幸一郎)に要求したことおよび原告らにおいてこれを拒否したことが認められるけれども、囲繞地所有者においてかかる要求をなしうべき権利はないのみならず、同番の三および四の土地の通行権は、民法第二一三条に基づくものであって、償金を払うことを要しないから、右各土地の所有者らにおいてこれに応じないことをもって、誠実の原則に反する事情となしうるものではない。

3  よって、原告泉谷および同河野の請求は全て理由がある。

四、よって、原告泉谷および同河野の請求を正当として認容し、その余の原告らの請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本順市)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例